大手食品メーカー「キッコーマン」さんのしょうゆ卓上びん等のインダストリアル・デザイナーとして有名な栄久庵憲司さんによると、日本の代表的なお弁当である幕の内弁当に秘められた美学が、世界に誇りうる日本的デザインを生み出しているという。
幕の内弁当に秘められた日本人の美学とは何なのか、そして、日本人の美学が遺憾なく発揮された日本製品の一つとして、多様性あふれる国産キャンピングカーについて書いてみたいと思います。
何でもコンパクトにまとめないと気がすまない日本人⁉
日本文化に詳しい韓国の文芸評論家の李御寧さんは、どうも日本人は昔から省スペースの知恵として「使うときは広げて、使わないときはコンパクトにまとめて収納する」という、何でも縮めようとする発想「縮み志向」を持っていたのではないかと分析しています。
例えば、日本人が発明した「扇子」。
どの国にもあった薄くて平べったい省スペースの団扇を、なぜか日本人だけが畳んで縮め、握りやすくて持ち運びやすいコンパクトな扇子に変身させてしまったのです。
もともと折り畳んである傘を、さらに折り畳んでバッグに入れて持ち運べる「折り畳み傘」にしたのも日本人です。
しかも扇子はさっと広げるだけで使えて実用的なだけでなく、中に描かれた美しい絵や文字などをいつでも見て楽しむことができます。
いわば、扇子は実用を兼ね備えた「動く芸術品」なのです。
日本人は「手ごろ・手軽」が大好き
確かにそう言われてみると、日本人は、美しいものや実用的なもの、食べ物などを手ごろなコンパクトサイズにして、いつでも手軽にアクセスできるようにしたがる傾向があるような気がします。
日本人が発明したものや愛用してきたものを思いつくままに挙げてみますと…
小さくて可愛い「ひな人形」、美しい巨木を縮小した「盆栽」、巻いて持ち運べる絵画「掛軸・絵巻」、
使うときは広げて使わないときはコンパクトに畳んでしまえる「布団」、「提灯」、「着物・帯」、
いつでもどこでも好きな音楽が聴けるポケットサイズの「ウォークマン」、
ハードカバー(正装本)を手のひらサイズにした「文庫本」や「コンサイス辞典」、
魚とご飯を一口で食べられる「お寿司」、ご飯とおかずを握って丸めた「おにぎり」、
お湯を入れて混ぜるだけで飲める「インスタントコーヒー」、お湯を入れて待てば食べられる「インスタントラーメン」などなど。
幕の内弁当の美学とは
そして、食膳に並べられていた食べ物を手で持ち運べるようにしたいというニーズに応えて生まれたのが「お弁当」です。
なかでも四季や自然など日本の美を取り入れて、まるで一枚の絵のように美しく、ご飯といろんな種類のおかずを四角い小さな箱に詰めたのが「幕の内弁当」でした。
インダストリアルデザイン界の第一人者であった栄久庵憲司さんによれば、幕の内弁当には「異質なものを貪欲にとりこんで、それぞれの特性をすべて活かす」という日本人の美学が秘められているそうです。
日本人は、色や形、性質などが違い、一緒に詰めるのが難しいものを、あえて限られた狭い空間にたくさん詰め、それぞれの良さを活かして質の高い美しいものを作り出すことに強いやりがいを感じ、高い技術力を発揮します。
日本人は、ありとあらゆるものが凝縮された、細かくて緻密な結晶物の中に「美」を見出すのです。
どうも日本人には、いろんなものが散らばっているのを見ると、それらを何でも一つの箱にきれいにまとめたくなるような気質があるのかもしれません。
そのような日本人の特性が、「限られた空間の中で、シンプルで無駄がなく、実用性も兼ね備えた美しいものを考え出す」という日本人の才能へと昇華され、扇子や折り畳み傘などの日用品からトランジスタ製品、自動車、茶室や日本庭園などの世界に誇る日本的デザインを生み出してきたのです。
多様性あふれる国産キャンピングカー
前置きが長くなりましたが、コロナ禍で密を避けようと最近人気急上昇中のキャンピングカーは、そんな日本人の美学が遺憾なく発揮された現代の日本製品の一つなのではないかと思います。
ただ、ひと言でキャンピングカーといっても、ベース車両や作り方によって、さまざまなカテゴリ―に分けられます。
それぞれの特徴やメリット・デメリットをまとめてみますと…
キャンピングカーの種類
軽キャンパー
軽トラックや軽バン・ワゴンなどをベースにしたキャンピングカー
・軽自動車ベースなので、コンパクトで運転しやすく街乗りもスムーズ、車両価格も車の維持費も割安で経済的
デメリット
・居住空間が限られてしまう(自分の使い方に合っていれば快適に過ごせます)
・軽キャンパー仕様だと車体の重さに対してエンジンのパワーが非力なので、走行性能が落ちてしまい高速道路などでの長距離移動が厳しい
バンコン(バンコンバージョン)
ハイエースやキャラバンなどのバンをベースにしたキャンピングカー
・バンの中身だけをキャンピングカー仕様にしているので、走行性能が高く、街乗りも可能
・見た目はふつうのバンとあまり変わらないので、キャンピングカーに見えずスマートでカッコいい
デメリット
・ベース車を高価なものにしたり、オプションをいろいろ付けたりすると、意外と値段が高くなってしまう
・基本的に天井が高くないため、背が高い人は車内で直立できず腰に負担がかかる(ハイルーフタイプやポップアップルーフ付きなら直立できます)
キャブコン(キャブコンバージョン)
トラックなどをベースにしたキャンピングカー
車の後ろに居住部分を取り付け、車両前方のバンクベッド(ロフトベッドのようなもの)がリーゼントのようになっているのが特徴
・車体の大きさが5m×2mくらいで通常の駐車サイズに収まるわりに、背が高い人でも直立できる居住空間の広さが最大の魅力
デメリット
・ベース車が荷物を運ぶためのトラックなので乗り心地があまり良くない
・車高が3mくらいあるので駐車できる場所が限られてしまう
・新車で買うと車両価格が500~1,000万円前後してしまう
バスコン(バスコンバージョン)
マイクロバスをベースにしたキャンピングカー
・人を運ぶためのマイクロバスをベースにして、中身だけをキャンピングカー仕様にしているので、乗り心地の良さ、走行性能の高さ、広くて設備の充実した居住空間を同時に実現しているのが最大の魅力
デメリット
・全長が6m前後と大きいため駐車できる場所がかなり限られてしまい、駐車場の確保や街乗りが難しい
・新車で買うと1,000万円前後してしまう
セミフルコン(セミ・フルコンバージョン)
マイクロバスをベースにしたキャンピングカーですが、マイクロバスのボディをカットして居住部分を取り付けている点が、前項のバスコンと大きく異なります。
・人を運ぶためのマイクロバスがベース車なので、バスコンと同じように乗り心地が良く、走行性能も優れている
・居住部分がシェル構造になっているため、バスコンよりも断熱性が高く、居住空間もさらに広くて快適
デメリット
・全長が6~7m以上あるため駐車できる場所が非常に限られてしまい、駐車場の確保や街乗りが難しい
・新車で買うと1,500~2,000万円以上してしまう
トラキャン(トラックキャンパー)
ハイラックスなどのピックアップトラックをベースにしたキャンピングカー
・ピックアップトラックの荷台に脱着可能な居住部分を載せるタイプなので、キャンピングカーとして使わないときは、居住部分のキャンパーシェルを外してトラックのみでも使えるのが最大の特徴
・キャンパーシェルは荷物扱いのため、自動車税などの維持費がかからず、キャンパーシェルの価格も割安で経済的
デメリット
・キャンパーシェルが荷物扱いのため、走行中は居住スペースで過ごすことができない
・運転席と居住部分が完全に分かれているので、運転席と居住部分の行き来ができない
・居住部分のシェルを荷台に載せて走るので車高が高くなってしまい、キャブコンやセミフルコンと同じように高さ制限に引っかかりやすい
・荷台に乗せるキャンパーシェルを安全に保管できる場所を確保しなければならない
キャンピングトレーラー
牽引用のシャーシに居住部分を取り付けたものを車で引っ張るタイプ
・トレーラーを切り離せば、普段はもちろんのこと、旅先でもヘッド車のみで身軽に行動することができる
・トレーラーの重量が750kg以下なら普通免許で牽引することができる
・エンジンなど車を動かすための機械が付いていないため、自動車税などはかかりませんし、居住空間が広々としていて装備が充実しているのに価格が割安
デメリット
・トレーラーを安全に保管できる場所を確保しなければならない
・トレーラーを引っ張って走ると全長が長くなるので、特にバックするときなど運転には慣れが必要で、通れる道も駐車できる場所も限られてしまう
機能性とデザイン性を兼ね備えたキャンピングカー3選
国産キャンピングカーには、限られた空間の中で、シンプルで無駄がなく、実用性も兼ね備えた美しいものを考え出すという日本人の高い能力が遺憾なく発揮されています。
現在、日本にはキャンピングカーメーカーが60社以上ありますが、どのビルダーさんも独自の趣向を凝らした個性あふれる日本人らしさ全開のキャンピングカーを製作されています。
どのキャンピングカーも本当によくできていて甲乙つけがたく、かなり悩みましたが、私の独断と偏見で、軽キャンパー、バンコン、キャブコンの中から機能性とデザイン性を兼ね備えたキャンピングカーをそれぞれ1台ずつ選んでご紹介したいと思います。
フィールドライフさんの軽キャンパー「バロッコ」
「軽キャンピングカーで本格派モーターホームを…」私たちのこの想いから、“バロッコ”は誕生しました。 ただ“居る”だけでく…
ダイハツ工業さんの軽トラ「ハイゼットトラック」ベースの軽キャンパー。
全長3.395m、幅1.480m、高さ1.980mというコンパクトなボディに、冷蔵庫やシンクなどのキッチン、食事などができるダイネット、ベッドにもなるソファー、各種収納スペースなどが備えられています。
ポップアップルーフを使えば、車内が広くなって直立できるのも魅力です。
トイファクトリーさんのバンコン「BADEN バーデン」
キャンピングカー専門誌『オートキャンパー』の2010年アワードで、ベスト1に輝いた『BADEN(バーデン)』。先鋭クリエ…
トヨタ自動車さんの「ハイエース(スーパーロング)」ベースのバンコン。
全長5.380m、幅1.920m、高さ2.285mと、全長が5mを超えてしまうのですが、そのぶん車内が充実した装備になっています。
外から見ると普通の車なのに、冷蔵庫やシンクなどのキッチン、広い対面式のダイネット、天井収納庫やベッド下の大容量の収納スペース、そして、車内後方には常設ベッドがきれいにスッキリ収まっているのが魅力です。
ナッツRVさんのキャブコン「クレソンジャーニーType X」
コストパフォーマンスに優れ、クオリティーの高さで絶大な支持を得ているロングセラーモデル「クレソン」。クレソンジャーニー …
トヨタ自動車さんの「カムロード」というキャンピングカー専用のトラックベースのキャブコン。
全長4.990m、幅2.080m、高さ2.900mと車高は高いですが、全長と幅は5m×2mほどで通常の駐車サイズにおさまります。
冷蔵庫やシンクなどのキッチン、広い対面式ダイネット、天井収納庫やベッド下の大容量の収納スペース、車内前方にはバンクベッド(ロフトベッドのようなもの)があり、天井が高く背の高い人でも直立できる居住空間の広さが魅力です。
そして、このタイプXはトイレなどに使うマルチルームがないぶん、全長5m以内なのに車内後方にダブルベッドサイズの常設ベッドがあるが最大の特徴です。
ナッツRVさん独自開発のクレソンジャーニー用の急速充電システム「EVOLITE(エボライト)」搭載モデルにすれば、外部電源なしで電子レンジや家庭用エアコンなどを使うこともできます。
・新しい幸せのかたち。キャンピングカーという動くマイホーム
・アウトドア派もインドア派も!休日バンライフで人生を変える
・夢のマイホーム?大きな家に住むと幸せになれる?幸せな家の条件とその真実
『人生を10倍豊かにする至福のキャンピングカー入門』岩田一成さん(2016年 グラフィスさん)
『「縮み」志向の日本人』李御寧(イーオリヨン)さん(1984年 講談社さん)
『持たない暮らし』下重暁子さん(2008年 中経出版さん)