人工知能(AI)は人の仕事を奪うのか?AIと共存して幸せになるために今できること―その1

AIのイメージ

近い将来、日本人の2人に1人が失業してしまう⁉

英国オックスフォード大学のカール・B・フレイ博士とマイケル・A・オズボーン(じゅん)教授が、2013年にセンセーショナルな論文を発表し、世界に衝撃が走りました。

向こう10~20年以内にアメリカの雇用の47%が機械に置き換わってしまうリスクが70%以上あり、アメリカ人の2人に1人が失業するかもしれないというのです。

日本でも2015年に野村総合研究所さんとオズボーン准教授らが共同でアメリカと同じ条件下で予測し、日本では「労働人口の49%が機械に代替される可能性が高い」という検証結果が発表されました。

やはり日本でも2人に1人が失業してしまう計算です。

でもこれらの予測はあくまで特定の条件のもとで検証されたもの。

仕事はいろいろな業務(タスク)から成り立っているのに、タスクベースで考えられていなかったり、人工知能(AI)やロボット、IoT(Internet of Things モノのインターネット)などの普及で新たに生まれる仕事がカウントされていなかったりして、推計値が現実よりも過大になっているのではないかと言われています。

実際のところ、さまざまな現実的要素を考慮すると〇〇%のような定量的予測は不可能というのが専門家の間での常識のようです。

痛みを伴う転換をするか、安定したジリ貧を取るか

人工知能(AI)などの普及で今後どれくらい人間の仕事が減ってしまうのか、定量的な予測はできないにしても、産業・職業別については経済産業省がまとめた「新産業構造ビジョン~第4次産業革命をリードする日本の戦略~(2015年4月27日)」というレポート(経済産業省のWEBサイト)に詳しく書かれています。

経済産業省によれば、このレポートを作成した時点で、日本は「痛みを伴う転換をするか、安定したジリ貧を取るか」の分かれ目にいたようです。

そこでこのレポートでは、テクノロジーの進化に前向きに対応するかしないかで、二つのシナリオに分けて今後の日本の雇用状況を予測しています。

産業や雇用の転換・流動化を進めた場合の痛みを伴う「変革シナリオ」と、産業や雇用の縦割り状態を放置した場合の安定したジリ貧に向かう「現状放置シナリオ」です。

全体としては今から約10年後の2030年には、2015年と比べて、現状放置シナリオなら735万人分の雇用が減りますが、変革シナリオなら161万人分の減少に抑えることができるそうです。

全従業者数(2015年)が6334万人なので、変革せずにこのまま進めば、10人に1人は職を失うリスクがあるという計算になります。

ちなみに「変革シナリオ」を実行すれば、「機械・ソフトウェアと共存し、人にしかできない職業に労働力が移動する中で、人々が広く高所得を享受する社会」を実現できるそうです。

他方で変革しないと、「機械・ソフトウェアと競争する、低付加価値・低成長の職業へ労働力が集中し、低賃金の人が多い社会」になってしまうそうです。

失業者を減らすことができる上に多くの人が高収入を得られるなら、痛みを伴うとしても、変革した方が良さそうな気がしますが…

雇用が減る仕事ワースト3

職業別でみると、変革した場合としない場合とで雇用はどう変わってくるのでしょうか。

実は変革してもしなくても雇用が減ってしまう職業があります。

ワースト1位は製造業系の仕事で、ワースト2位は事務系の仕事(ホワイトカラー)だそうです。

そして変革しなかった場合のワースト3位は経営や企画・研究開発などハイスキルの仕事ですが、この仕事は変革すれば逆に雇用が増える仕事のベスト3に浮上します。

このレポートによると、最も雇用が減ってしまう製造業系(製造ラインの工員や企業の調達管理部門など)では、人工知能(AI)やロボットによる代替が進み、現状放置シナリオでも262万人減るのに、変革シナリオではさらに30万人ほど多い297万人減ると予測されています。

変革すると雇用がさらに減るなら変革しない方がいいんじゃないかとも思いますが、他の国が人工知能(AI)を活用して追い上げてくることを考えると、モノづくり大国ニッポンも安泰ではなく、そうも言っていられないようです。

製造業系の次に雇用が減ってしまう事務系(経理や給与管理等の人事部門、データ入力係など)、いわゆるホワイトカラーも、人工知能(AI)や世界的な規模のアウトソーシングによる代替が進み、変革してもしなくても約145万人の雇用が減ると予測されています。

経済産業研究所の岩本晃一さんによると、高スキルのルーチン事務作業が人口知能(AI)などの機械によって自動化されていくと、そうした業務の多くを担ってきた大卒で高学歴の女性たちが最大の打撃を受ける可能性があるそうです。

そして経営や企画・研究開発などハイスキルの仕事を担う人材は、現状維持のままでいくと136万人減りますが、社会のさまざまな問題を解決する新たなサービスを生み出すことができれば、一転してハイスキルの仕事は96万人の雇用が増えると予測されています。

人と接する販売・サービス業なら機械に仕事を取られない?

ワースト3には入っていなかった販売・サービス業は、人と接する仕事なので人工知能(AI)などの機械に置き換わりにくいとも思えますが、変革すると業務内容によって二極化してしまうようです。

高度なコンサルティングが必要な保険の法人営業担当や、きめ細やかなサービスを提供する高級レストランの接客係・介護職など、高付加価値の商品・サービスを販売・提供する仕事は、人間でなければできないので293万人の雇用が増えると予測されています。

一方で、スーパーのレジ係や大衆飲食店の店員など低付加価値の商品・サービスを販売・提供する仕事は、人工知能(AI)やビッグデータ、ロボットなどによる効率化・自動化が進み、119万人の雇用が減ってしまうそうです。

人工知能(AI)が普及しても職業そのものがなくなるわけではないが…

ここまで職業別に雇用がどのくらい減るのかを見てきましたが、さまざまな業務が機械に置き換わって人間の仕事は減るものの、省力化が進んで仕事の中身が変わるだけで、基本的には職業そのものがなくなるわけではありません。

ただし人工知能(AI)などの機械にはできない業務をこなせなければ、今より条件の悪い仕事に転職しなければならなくなる可能性があります。

そこで次回の記事では、人工知能(AI)と共存して働きながら幸せに暮らしていくためにはどうしたらいいのか、現時点で人工知能(AI)はどんなことができるのかについて書いてみたいと思います。

次回へ続く…

参考文献
『AI時代に食える仕事 食えない仕事―週刊東洋経済eビジネス新書No.308』週刊東洋経済編集部さん(2019年 東洋経済新報社さん)
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』リンダ・グラットンさん、アンドリュー・スコットさん、池村千秋さん訳(2016年 東洋経済新報社さん)
『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』藤野貴教さん(2017年 かんき出版さん)
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』新井紀子さん(2018年 東洋経済新報社さん)
『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』ルトガー・ブレグマンさん、 野中香方子さん訳(2017年 文藝春秋さん)
『伝え方大全 AI時代に必要なのはIQよりも説得力』カーマイン・ガロさん、 井口 耕二さん訳(2019年 日経BPさん)