人工知能(AI)は人の仕事を奪うのか?AIと共存して幸せになるために今できること―その3

読書

ディープラーニングで事務作業を効率化

前回の記事では、急速な少子化や高齢化で深刻化していく労働力不足をカバーするためにも、人間が人間らしい仕事に専念して自主的に楽しく働けるようになるためにも、人工知能(AI)を活用していくことが重要だということについて書きました。

では、「ディープラーニング」や「DataRobot(データロボット)」などの人工知能(AI)を活用して、メールチェックや書類作成、書類のチェック、データ分析などができるようになったら私たちの仕事はどうなるのでしょうか。

例えば、ある製品を販売する会社で「こういうメールが来たら、商品の注文、メーカーさんからの連絡、緊急で対応が必要な案件、お客さんからのクレーム・問い合わせ…」などと、人工知能(AI)に過去の大量のメールのデータを読み込ませて学習させ、自動的にメールを分類してくれるようにする。

人工知能(AI)に正しい書類だけを大量に読み込ませて学習させ、変数さえ入力すれば自動的に書類を作成してくれたり、間違った書類を弾いてくれるようにしたりする。

そうすれば、現場の営業スタッフの事務作業がかなり楽になることが期待されます。

データ分析してくれるDataRobotと協働してビジネスチャンスを掴む

そして現場の事務作業が軽減されると、今までよりも人手がいらなくなります。

そうすると、営業企画部などの本社部門が優先的に残り、現場の営業スタッフは一部しか残れないのでしょうか。

私はそうとは限らないと思います。

組織が大きいと、現場から上がってくるデータを入力する現場の営業スタッフと、そのデータを分析して改善策を検討する営業企画部などの本社部門に分断されてタイムラグが生じ、時代の変化やニーズにスピーディーに対応するのが難しくなることもあります。

せっかく現場から「今こんなニーズが高まってますよ」という声が上がってきても、すぐに営業企画部などの本社部門にその情報が伝わらなかったり、失敗を避けようと、そのニーズに対してどう対応するか本社部門が慎重に検討しているうちに時間が経ってしまったりして、せっかくのビジネスチャンスをふいにしてしまうこともあると思うのです。

そこで、現場で察知したニーズや顧客管理情報などのデータを「DataRobot(データ分析してくれるロボット)」に読み込ませて学習させ、現場の営業スタッフが自分で「この新製品はどの顧客層をターゲットにしたら売り上げが伸びるか」などの課題を人工知能(AI)に与えて分析させて、予測モデルを作るようにしたらどうでしょうか。

現場の営業スタッフも、データを入力するだけでなく、人工知能(AI)によるデータ分析を活用することで現場の営業力を強化し、時代の変化やニーズにスピーディーに対応できるのではないかと思います。

DataRobotはほんの数分で予測モデルを作ってくれるので、現場スタッフはその予測モデルを活用して今後どうすべきかを検討してすぐに実行に移していくことができます。

予測モデルに基づいて作成した改善策などについて、短期間でトライ&エラーを繰り返すことができますし、現場スタッフが自分で考えたアイデアならモチベーションが上がって、ビジネスチャンスを(つか)む可能性が高まるのではないでしょうか。

求められているのは、感性を磨いて現場で時代の変化やニーズを的確に感じ取りながら、人工知能(AI)を使いこなしてデータを分析させ、その分析結果を検討して改善策や新しいサービスを生み出して実行していく能力です。

企画担当であろうと現場スタッフであろうと、このような能力を備えた人が組織から必要とされるのではないかと思います。

平均の時代は終わった? 人工知能時代に求められる能力

人工知能時代に求められるのは、感受性豊かで好奇心が強く、時代の変化や社会のニーズに気づいて疑問を持ち、どうしたらいいんだろうと考え、人工知能(AI)と協働しながら創意工夫して問題を解決していく能力です。

つまり、感情豊かで好奇心が強く、創意工夫をすることに喜びを感じるという人間の本来の姿を取り戻すことにつながります。

逆に言うと、マニュアルを覚えて同じような作業をひたすら繰り返すだけでは、人工知能(AI)に仕事を取られてしまいます。

人工知能(AI)にはできない業務をこなせなければ、今より条件の悪い仕事に転職しなければならなくなるかもしれません。

ベストセラー『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』の著者であるカーマイン・ガロさんの著書『伝え方大全 AI時代に必要なのはIQよりも説得力』には、次のように書かれています。

「プラスアルファが必要だ。自分の価値、自分が専門としている仕事で抜きんでるなにか、といったものをみつける必要がある」「平均の時代は終わった」というのは単なるキャッチフレーズではないと、経済学者タイラー・コーエンは言う。人工知能の普及と経済のグローバリゼーションがどんどん進んでおり、今後は、「インテリジェントなマシンと上手に協力して働けるか。コンピューターを補うスキルを自分はもっているのか、それとも、コンピューターだけに仕事をしてもらったほうがいいのか。それとも、自分は、コンピューターと競争しなければならない最悪の立場にいるのか」と考えなければならなくなるはずだ、と。

人工知能(AI)にはできない仕事をするためには、人工知能(AI)を理解して使いこなす能力を身につけたり、自分の好きなことや得意なことを極めたり新しいことを学んだりして専門性を高め、人工知能にはできないプラスアルファを持つことが必要です。

失業したり、今より条件の悪い仕事への転職を余儀なくされたりしないよう、今からしっかり準備していくことが重要なようです。

人工知能(AI)と共存して幸せになるために今できること

まず人工知能(AI)と共存して幸せに暮らしていくためには、どの作業を人工知能(AI)に任せたら人間にしかできない仕事に集中できるのかを常に意識しながら働くことが求められます。

今は、テレビやラジオ、ニュースサイト・YouTubeなどのネット、本などを活用して情報収集することがいくらでもできます。

現時点で人工知能(AI)には何ができるのか本などで調べたり、関心のある事項の中から人工知能(AI)がどんどんコンテンツをすすめてくれるYouTubeを見るなど、テクノロジーを活用して人工知能(AI)について深く多角的に学んだりするといいのではないかと思います。

一方で、時代の変化や社会のニーズを的確にキャッチし、問題意識を持てるようになるために、ときにはテクノロジーとは適度に距離を置き、人工知能(AI)にはない身体感覚や感性を磨いて感受性を高め、さまざまなことに対して疑問を持つことも大切です。

現代人は、エアコンで温度が一定に保たれ、夜でも煌々(こうこう)と電気のついた部屋の中で過ごし、便利で快適な生活を送る一方で、変化に鈍感になってしまいがちです。

自然と親しんで変化を楽しんだり、自分をあえて不便な状況に置いて創意工夫したり、ネットのつながらない場所でボーっとしたり読書したりしながらアイデアを練ったりするといいかもしれません。

まずは、感情豊かで好奇心が強く、創意工夫をすることに喜びを感じるという人間本来の姿を取り戻すことから始めてみる。

それが人工知能(AI)と共存して幸せになるために今できることなのではないかと思います。

残念ながら今の仕事が人工知能(AI)に取られてしまう可能性が高いのであれば、人工知能(AI)を管理したりサポートしたりするAIエンジニアやITエンジニアになるための勉強を始めたり、カウンセラーやファイナンシャルプランナー、美容師、マッサージ師、料理人など、高度な知識・技術だけでなく人とのつながりも重要な、人間にしかできないアナログ分野の仕事に就くための資格を取ったりするなど、好奇心を持って新しいことを学び続けることも重要になってきます。

感情豊かで好奇心が強く、創意工夫をすることに喜びを感じるという人間本来の姿を取り戻し、人工知能(AI)にはできないプラスアルファを身につける努力を、みんながそれぞれできる範囲でしていく。

そうすれば「人工知能(AI)は人の仕事を奪うのか?AIと共存して幸せになるために今できること―その1」という記事で紹介した「変革シナリオ」がうまくいき、「機械・ソフトウェアと共存し、人にしかできない職業に労働力が移動する中で、人々が広く高所得を享受する社会」を実現できたときには、みんなが自主的に楽しく働ける幸せな社会になるのではないかと思います。

これからどうするか

いまコロナ禍で3密を避けて楽しめるキャンプやBBQの人気が高まっています。

コロナ禍での自粛により県外への移動が制限されているため行ける場所は限られてきますが、なるべく水や緑の多い場所へ行って自然と親しみ、自分なりに創意工夫しながら屋外での料理を楽しんだり、散策やスポーツなどで体を動かしたり、本を読んで疲れたらボーっとしたり。そして暗くなったら寝る。

休みの日を時にはそんなふうに過ごしつつ、平日は手に職をつけるために文章を書いたり、今後もたくさん本を読んだりして生涯学習に励んでいきたいと思います。

テクノロジーがさらに発達すれば、私がいま目指しているライターの仕事も人工知能(AI)に取られてしまうかもしれませんが(大汗)

参考文献
『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』藤野貴教さん(2017年 かんき出版さん)
『AI時代に食える仕事 食えない仕事―週刊東洋経済eビジネス新書No.308』週刊東洋経済編集部さん(2019年 東洋経済新報社さん)
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』リンダ・グラットンさん、アンドリュー・スコットさん、池村千秋さん訳(2016年 東洋経済新報社さん)
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』新井紀子さん(2018年 東洋経済新報社さん)
『人工知能は人間を超えるか』松尾 豊さん(2015年 KADOKAWAさん)
『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』ルトガー・ブレグマンさん、 野中香方子さん訳(2017年 文藝春秋さん)
『伝え方大全 AI時代に必要なのはIQよりも説得力』カーマイン・ガロさん、 井口 耕二さん訳(2019年 日経BPさん)
『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイドさん、有枝 春さん訳(2016年 ディスカヴァー・トゥエンティワンさん)