人工知能(AI)は人の仕事を奪うのか?AIと共存して幸せになるために今できること―その2

AIと協働

人工知能(AI)は人の仕事を奪うわけではない?

前回の記事では、さまざまな業務を人工知能(AI)などの機械が人間に代わって処理するようになると雇用が減ってしまうと書きましたが、今後も急速な少子化と高齢化で人口がどんどん減っていくので、日本全体としては労働力不足に(おちい)ることが予想されています。

内閣府が公表した労働力人口の推計(2014年3月12日)によると、出生率や女性の就業率などが改善せずに現状のままで行くと、労働力人口は2030年には5683万人まで減ると予測されています。

2021年7月現在の就業者数は6711万人なので、2030年までに労働者が約1000万人減ってしまう計算になります。

テクノロジーの進化に対して、産業や雇用の転換・流動化を進めなければ(現状放置シナリオ)735万人分、変革すれば161万人分の雇用が減りますが、あと10年以内に労働力人口も約1000万人減るので、トータルで見れば労働力が足りなくなってしまうわけです。

ということは、「現状放置シナリオ」でも「変革シナリオ」でも仕事に就けなくて困る可能性は低く、むしろ人手不足をカバーするためにテクノロジーを活用していくことが重要になってきます。

人工知能(AI)などの機械が人の仕事を奪うというよりは、機械が得意なことは機械に任せて業務の効率化を図れば、私たちは人間にしかできない仕事に専念できるという前向きな役割分担の発想で考えた方がいいのではないかと思います。

機械が得意なことは人間が苦手なことなのに…

では機械が得意なことは何かというと、大量のデータを何度も何度も高速で処理することです。

機械には人間のような生身の身体がないので疲れませんし、心がないので飽きることもないため、人間からすれば骨の折れる退屈な作業を難なくこなすことができるのです。

そうだとすると同じことの繰り返しで飽きがくるルーチン作業は、人工知能(AI)などの機械に任せてしまった方が効率的ですし、人間にとっても楽なはずです。

それなのに、お金や安定した生活のために自分の時間や感情を犠牲にしてまで機械(ロボット)のように同じことを繰り返す仕事をしている人もいるのではないでしょうか。

実は20世紀は「人間をロボット的にする時代」だった

実は20世紀は経済が発展して人々の生活が豊かになった一方で「人間をロボット的にする時代」だったとも言えるのです。

働き方の専門家で、人工知能学会会員でもある藤野貴教さんの著書『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』には、次のように書かれています。

実は20世紀とは、「人間をロボット的にする時代」であったともいえます。1900年代前半に自動車の元祖であるT型フォードが誕生し、「大量生産」の仕組みが生まれました。たくさんの人間を同じ場所(工場や会社)に押し込め、同じような仕事をさせていくことが、大量生産の時代においては最も効率がよかったからです。

「効率」が最も重要な業績評価指標となり、そのために人の感情や疑問は、時に「非効率」なものとして無視されざるを得ない状況に陥りました。まさに人がロボット的に進化してきたのが、20世紀であったといえます。

21世紀に入り、人間は気づき始めました。「効率」だけではどうにもならない時代になってきたことに。効率だけ追い求めても、幸せになれないんじゃないかという「感情」「疑問」が生まれると同時に、人間の「身体」や「心」が悲鳴をあげるケースも出てきました。そういった人間の「気づき」とともに登場したのが、AIなのではないかと感じています。

会社や学校などで効率を上げて多くのことを短時間でこなすことを求められ、疲れ果てて過労死してしまったり、がんばり過ぎてうつ病になってしまったりする人が後を絶ちません。

「やらされてる感」が多くの人を不幸にしてしまっているのではないでしょうか。

人間は本来、感情豊かで好奇心が強く、創意工夫をすることに喜びを感じる生き物です。

人工知能(AI)が「効率化」をやってくれれば、時間に余裕ができて、人は人工知能(AI)にはできない人間らしい仕事に専念して自主的に楽しく働けるようになり、幸せになれるかもしれません。

いま話題の「ディープラーニング(深層学習)」とは

では人工知能(AI)に「効率化」を任せるとして、現時点では人工知能(AI)は何ができるのでしょうか。

いま最も注目されているのは「ディープラーニング(深層学習)」です。

人工知能(AI)というのは最初から何でもできるわけではなく、何も教えなければ空っぽの箱です。

そこへ人間が「これが正常な状態だよ」と大量のいろんなバリエーションの正しいデータを読み込ませていくと、記憶した大量のデータを人工知能(AI)が分析してその特徴を学習し、正しいデータと間違ったデータを見分けることができるところまで来ています。

すごいことに人工知能(AI)が自分で学習して特徴を(つか)むことができるようになったのです。

例えばマヨネーズで有名な大手食品メーカーのキューピーさんは、商品の製造に使う原料の不良品検査に人工知能(AI)を活用し、四六時中目を凝らして不良品をチェックし集中力を要する従業員の負担を軽減することに成功しています。

今までは人が「不良品」を見つけ出していたのを、逆転の発想で、人工知能(AI)が「良品」を見つけ出してそれ以外は不良品として弾くことで「効率化」を図り、大幅に生産性を上げることができたのです。

どんなに偽ブランド品が作られようとも、本物を見続けているプロの鑑定士さんが、偽物を弾いて本物と見分けることができるのと同じようなイメージです。

瞬時にデータ分析してくれるDataRobot(データロボット)

先程ご紹介した『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』によると、人工知能(AI)を活用して、わずか3分ほどでデータ分析できる「DataRobot(データロボット)」というツールもあるそうです。

大量のデータをDataRobotに読み込ませ「何を分析したいか」設定すると、記憶したデータを統計・分析し、わずか数分程度で「予測モデル」を自動で作ってくれるのです。

例えば、入試の過去問を大量にDataRobotに読み込ませて「今後出題される可能性の高い問題は何か」と設定したら「過去のデータからしてこんな問題が出る可能性が高いですよ」と予測モデルを作ってくれるイメージでしょうか。

こんなことが本当に瞬時にできたら、入試関連の出版社で働く人たちの負担が減り、予想問題の作成などクリエイティブな仕事に専念できそうですね。

次回の記事では、実際に人工知能(AI)を活用して効率化を図ったら私たちの仕事はどんなふうに変わっていくのか、人工知能(AI)と共存して幸せになるために今できることについて考えてみたいと思います。

次回へ続く…

参考文献


『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』藤野貴教さん(2017年 かんき出版さん)
『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』河合雅司さん(2017年 講談社さん)
『未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること』河合雅司さん(2018年 講談社さん)
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』新井紀子さん(2018年 東洋経済新報社さん)
『人工知能は人間を超えるか』松尾 豊さん(2015年 KADOKAWAさん)
『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』ルトガー・ブレグマンさん、 野中香方子さん訳(2017年 文藝春秋さん)
『伝え方大全 AI時代に必要なのはIQよりも説得力』カーマイン・ガロさん、 井口 耕二さん訳(2019年 日経BPさん)