自分の課題に取り組み成長して自立し自由になる―人生のタスクと向き合う方法 STEP4

階段

前回の記事(STEP3)では、「人生のタスク」(対人関係の問題)と向き合い、自立して社会の中でうまくやっていくために、課題を分離して対人関係の悩みを解決し、人生をシンプルにして身軽になることについて書きました。

STEP4では、いよいよ自分の課題に取り組んでいきます。現実逃避せずに、「人生のタスク」と向き合っていけば、能力をつけて成長し、自立して自由になることができます。

ここでのキーワードは、「優越性の追求」と「自己(じこ)受容(じゅよう)」です。

人が持っている根源的な欲求である「優越性の追求」を出発点にして、どうやって自分の課題と向き合っていけばいいのか考えてみたいと思います。

 優越性の追求
人は無力で不自由な状態で生まれるので、能力をつけて成長し、自立して自分の力で自由に行動できるようになりたいと願うこと
 自己受容
ありのままの自分を受け入れ(自分に与えられたものをどう使うかに注目=使用の心理学)、変えられるものについては変えていく勇気を持つこと

誰もが持つ欲求「優越性の追求」と劣等感

優越性の追求」とは、人は自分では何もできない未熟な状態で生まれてくるので、成長して自分で何でも自由にできるようになりたいと強く願うようになることをいいます。

誰もがこの「優越性の追求」という願望を持っていて、早く大人になりたい、学校でもっと良い成績をとりたい、もっと仕事ができるようになりたい等、人はいつも今の自分より向上したいと願っているのです。

そして理想の自分と今の自分とのギャップに悩み、まるで自分が劣っているかのような感覚(劣等感)を抱きます。

 劣等感
自分が劣っているという感情を抱き、自分の欠点を補って完全なものにしようとする傾向のこと

劣等感を持つこと自体は、向上心がある証拠なので悪いことではありません。むしろ成長して自立するために必要なことです。

でも人は劣等感をずっと持ち続けていられるほど強くはありません。人にとって劣等感というものは、とても重いものなのです。

そこで、この劣等感をどうやって解消していくか、自分に足りないものをどうやって埋めていくかが、幸せになるための重要なカギになります。

劣等感を克服するための二つの方法

劣等感を克服(こくふく)して自分を納得させるために取れる方法は、二つあります。
シンプルだけどすごく難しい「健全な方法」と、手近で楽な「不健全な方法」です。

二つのうちどちらを取るかが、幸せになれるかどうかの分かれ道になります
 

幸せになるために取るべきなのは「健全な方法」です。
自分に足りないものを補おうと、何か練習したり勉強したり仕事で工夫したりする等、積極的に動いて努力するのです。

そうやって努力して自分の欠点や弱点を克服できれば、自分を納得させることができ、幸せな人生を送ることができます。

でも自分の欠点や弱点を克服しようとすると、何度も大きな困難にぶつかって(つら)い思いをしたり、ときには失敗して傷ついたりすることもあります。

それでも現実逃避せずにシンプルに自分の課題と向き合っていかなければならないので、「健全な方法」を取るためには根気や大きな勇気が必要になってきます。

そこで、私がそうですが(汗)、やる気がなくて辛い努力をしたくない人や、失敗が怖くて勇気がない人は、あれこれ言い訳をして、努力しなくてもいい「不健全な方法」に走り、自分を納得させようとしてしまいます。

でも「不健全な方法」を取ってしまうと、変わりたいと思いつつも不満を抱えたまま人生を過ごすことになってしまい、残念ながら幸せにはなれません。

健全な方法と不健全な方法

もし本気で変わりたいと思っているなら、勇気を出して「健全な方法」で自分の課題を解決していかなければなりません。

では具体的には、どうやって自分の課題と向き合っていったらいいのでしょうか。

人生のタスクと向き合う方法の STEP1STEP2ライフスタイル(世界観、人生観など)の再選択の繰り返しになる部分もありますが、「健全な方法」について「不健全な方法」と比べながら考えてみたいと思います。

 ライフスタイル
一般的にはライフスタイルと言えば、生活の仕方・様式をイメージすると思いますが、ここでは、世界観や人生観など、世界や自分をどのように意味づけ、どんなふうに考えたり行動したりしがちかということを意味します。

実は人は10歳前後の頃に無意識のうちにライフスタイルを選んでいるそうで、選んだということは変えられないものではなく、選びなおせるものだということです。

ありのままの自分を受け入れる

ありのままの自分を受け入れ、自分に与えられたものをどう使うかに注目し、変えられるものについては勇気を出して変えていき、劣等感をなくす努力をする(自己受容)。

例)英語を話せるようになりたいけど、英会話学校に通うお金もないし、十分な時間もない。そこで、ラジオで無料の英会話講座を毎日15分だけでも聴いて勉強する努力をする。
 

 不健全な方法

劣等コンプレックス

自分に与えられたものよりも、自分にないものばかりに注目し、自分には欠点があるからできないと、やるべきことをやらない。

例)英語を話せるようになりたいけど、英会話学校に通うお金もないし、十分な時間もない。だから英会話ができるようにならないんだと言い訳して、勉強する努力をしない。
なぜこんな言い訳をして自分を納得させようとするのかというと、お金がないから勉強できないということは、裏を返せば、実はできないと言いつつも「私だって、お金さえあれば英会話学校に通って英語を話せるようになれるんだ、私には本当は能力があるんだ」と自分を肯定できるからです。
 
優越コンプレックス
劣等コンプレックスの場合は、「自分はお金がないから勉強できない」とできない自分を受け入れて自分の劣等感と折り合いをつけていました。
でも、プライドが高くて、できない自分を受け入れられない人は、もっと安直な方法で自分を納得させようとしてしまいます。
あたかも自分が優れているかのように振る舞い、偽りの優越感に浸ろうとするのです。
例)有名人や有能な人と知り合いなんだとアピールして、自分も特別な存在であるかのように見せようとしたり、やたらとブランド品で身を固めたりして、有名人やブランドなどの「権威」を借りて自分を大きく見せようとする。
この優越コンプレックスも場合も、たとえ実際はそうでなくても「自分は有能なんだ」と自分を肯定できるから、自分の劣等感と折り合いをつけて納得できるのです。
でも残念ながら、有能な人と自分は別人格で自分の能力とは関係ないですし、どんなに高価なブランド品を身につけようと中身は変わらず、自分が有能になるわけではありません。
自分が勉強したり仕事で成果を出そうと努力したりしない限り、能力をつけて成長することはできないのです。
 
 

特別な存在になろうとしない

ありのままの自分を受け入れ、自分も世界を構成する普通の一人の人間であって、特別である必要はなく、「この世にたった一人しかいない私であること」に価値があると考えて他の人の承認を求めない(普通であることの勇気)。

例)他の人に認められるためではなく、一人でも多くの人を笑顔にするために、自分の持ち味を活かして芸人の道へ進み、常に向上心をもって努力する。
 
筆歌
アイドルグループのSMAPさんの名曲「世界に一つだけの花」の歌詞にもある「もともと特別なOnly one(オンリーワン)」ということですね。
 

 不健全な方法

安直な優越性の追求

もともと前向きな努力をしたくなかったり、努力してもうまくいかなくてやる気がくじかれてしまったりすると、健全な努力をしないどころか、周りに迷惑をかけるような問題行動に走り、他の人の注目を集めて特別な存在になろうとしてしまいます。

たとえ悪い意味でも他の人から特別な存在として注目されることで、自分には存在価値があるんだと自分を肯定して劣等感をなくそうとするのです。

例)学校で授業中に騒いだりして先生や他の生徒の注目を集めようとする。

でも重要なのは他の人に特別な存在として認められることではありません。

他の人に認められても認められなくても、自分の理想に少しでも近づけるように、地道な努力をして自分の課題と向き合っていかなければ、能力をつけて成長することはできないのです。

 

他の人と競争しない

他の人と比べて競争せず、今の自分より少しでも前進しようと努力することで、劣等感をなくしていく。

例)自己ベストを更新しようと努力するスポーツ選手
 

 不健全な方法

他の人と競争して勝とうとする

他の人と競争して勝つことで特別な存在となり、自分には価値があるんだと自分を肯定して劣等感をなくそうとする。

自分が成長することよりも誰かに勝つことが目的になってしまうと、勝つためなら手段は選ばず、ときには不正行為や競争相手に対する妨害などもしてしまう。

例)他の選手よりも筋力を増強させて有利になろうとドーピングしてしまうスポーツ選手
 

今を真剣に丁寧に生きる

人生を連続する刹那(せつな)のようにとらえ、一瞬一瞬のプロセスそのものを完結したものとみなして旅するように生きる(エネルゲイア的・現実活動態的な人生)。

今にスポットを当て、過去や未来を見ず、やりたいこと、やるべきことをシンプルにいま真剣かつ丁寧にやったり、好きなことや得意なことを極めたりして、能力をつけていく自分を受け入れて劣等感をなくしていく。

例)模擬試験でも本番のつもりで緊張感を持って臨み、全力投球する。
 
筆歌
超難関資格試験の模擬試験を受けていた時のことです。
短期間で合格を果たした知人は、試験が終わったあと真っ青な顔をしていました。「真っ青だけど大丈夫?」と声をかけると、「いつも本番のつもりでやってるから、気力も使い果たしてげっそりしちゃうの」と言われ、模擬試験だからと気を抜いていた自分が恥ずかしくなりました(汗)
 
 不健全な方法
不確実な未来ばかり見て今を生きない
人生を目的地まで続く一直線のようにとらえて生きる(キーネーシス的・動的な人生)。
目的地に到着することが目標なので、なるべく早く効率的に目標を達成しようと、時間や手間がかからない楽な方法に走ってしまったり、目標達成まで時間に余裕があるからとサボってしまったりしてして、むしろ理想の自分から遠ざかってしまうこともある。
他方で、楽な方法に走ったりサボったりせずに着実な方法で地道に努力したとしても、目標を達成するまでは準備期間(我慢の時期)で理想の自分にはなっていないと考えるので、自分を肯定できず劣等感の重みにずっと耐え続けなければならない。
例)
・模擬試験で本番ではないからとリラックスして試験に臨み、手を抜いてしまう。
・早く痩せたいからと、極端な食事制限ダイエットに走ってしまう。
 
 

自分に与えられたものをどう使うか考えて行動する

「今」の自分が自分の人生を決めると考え(使用の心理学)、自分の可能性を信じて「これからどうするか」を考えて自分の課題と向き合い、劣等感をなくしていく。

例)子どもの頃に両親が離婚して辛い思いをしたものの、自分は幸せな家庭を築こうと結婚に対して前向きに考えて行動する。
 
 不健全な方法
自分に何が与えられているかに注目して今後も自分は変われないと考える
過去が「今」の自分の人生を決めていると考え(所有の心理学)、自分の不幸な「過去」を持ち出して「悪いあの人、可哀そうな私」と愚痴を言って嘆くだけで、自分の課題と向き合わない(人生の嘘)。
例)子どもの頃に両親が離婚して辛い思いをしたから自分は結婚できないんだと、本当は結婚したいのに後ろ向きに考えて行動しない。
私がそうですが(汗)、本当は失敗が怖くて勇気がないとか、やる気がなくて楽したいだけなのに、自分の容姿やトラウマなどの不幸な過去、恵まれない環境など、変えられないものばかりに目を向けて、「だからいま私はこんなふうになってしまったし、今後も変われない」と自分に言い訳をして努力しないのです。
 
筆歌
アドラー博士は、さまざまな口実を設けて人生のタスクを回避しようとする事態のことを「人生の嘘」と呼び、自分に対しても周りの人に対しても嘘をつくことになるのだと断じます。厳しい(涙)
 

誰かを愛することで自立する(与える愛)

相手も自分を愛してくれるという保証がなくても、きっと自分が愛せば相手も応えてくれるだろうという強い信念を持つ。

そして勇気を出して誰かを愛することを決意し、自分のことばかり考えて愛されようとしていた子ども時代のライフスタイル(人生観、価値観など)と決別して自立する。

例)たまたま道をきいた人と親しくなり、また会う約束をして交際が始まり結婚を決意(実話です!)

「愛するということ」は能動的な活動・技術で、愛する人がその人らしく成長していけるよう気づかうことです。

孤独を(いや)すため愛する人に寄り添い一体感を得る一方で、ときには対立しつつも「愛する人と私」の幸せを求めて、共同作業を通じて数々の困難を乗り越えていけば、人は成長し、本当の自立を果たすことができます。

「愛するということ」と「好きということ」は混同しやすく、実は愛しているつもりでも、一方的に好きなだけでエゴになってしまっていることがあります
たとえば花が好きな人の中には、きれいな花を飾って見るのが好きなだけで、水やりなどの世話をきちんとせずに花を枯らしてしまう人がいます。
その花を一方的に支配・独占したいだけで、その花の命や成長を気づかっていないのです。
花を愛している人は、その花の美しさを楽しみ癒される一方で、責任をもって、その花がその花らしく元気にきれいに咲き続けられるよう世話をします。
愛は「生かす働き」であって、愛する者の生命と成長を積極的に気にかけることなのです。
 
 不健全な方法
与えられる愛を求めて自立しない
安全と安定ばかり求め、傷つくに決まっていると思い込んで自分の殻に閉じこもり、自分で自分を不自由にしてしまう。
本当は自分が傷つきたくないだけなのに、まだ運命の人が現れていないから自分は人を愛せないのだと、自分から愛そうとせず、他の人との関係に踏み込もうとしないのです。
そして、愛されようとしていた子ども時代のライフスタイル(人生観、価値観など)をやめられず、自分に足りないものは誰かに補ってもらって楽しようとしてしまう。
例)愛されようとして、運命の人が現れて自分を幸せにしてくれるのを待つ
ちなみに、結婚相手に対して、高年収を求めたり家事など身の回りの世話をしてもらおうとしたりするのは、与えられる愛への渇望から抜け出せていないからです。
 
参考文献
『嫌われる勇気』岸見一郎さん、古賀史健さん(2013年 ダイヤモンド社さん)
『幸せになる勇気』岸見一郎さん、古賀史健さん(2016年 ダイヤモンド社さん)
『愛するということ』エーリッヒ・フロムさん、鈴木昌(しょう)さん訳(1991年 紀伊國屋書店さん)
『生きがいの創造”生まれ変わりの科学”が人生を変える』飯田史彦さん(1999年PHP文庫さん)