新しいライフスタイルを再選択する―人生のタスクと向き合う方法 STEP2

階段

前回の記事(STEP1)では、「人生のタスク」(対人関係の問題)と向き合い、自立して社会の中でうまくやっていくために、 今のライフスタイル(人生観や世界観など)をやめる決心をすることについて書きました。

STEP2では、新しいライフスタイルを選びなおしていきます。今のライフスタイルは自分が無意識のうちに選んだものなのだと知った以上、今後は選びなおして変えることができるのです。

ライフスタイルを変えると、先が読めなくて不安になったり、不慣れなことが多くて戸惑ったりすることもあるかもしれません。

それでも、勇気を出して新しいライフスタイルを選びなおせば、世界はシンプルな姿を取り戻します。

そして、世界の見え方も自分の行動も変わり、誰もが幸せになれます。

一般的にライフスタイルと言えば生活の仕方・様式をイメージすると思いますが、アドラー心理学では「ライフスタイル」は世界観や人生観、価値観、性格なども含めた広い意味で使われています

自分への意味づけや思考・行動の傾向に関するライフスタイル

自分は世界の中心にいるわけではなく、世界の一部なんだというライフスタイル

自分は世界の中心にいるんだと思っていると、自分のことばかり考え、他の人が自分のために何をしてくれるかばかり考えてしまいます。

でも自分が自分のために生きているのと同じように、他の人も自分のために生きているのです。

そこで、自分も世界の一部なんだというライフスタイルを選びなおし、自分のことばかり考えるのをやめれば、他の人に期待しなくなります。

すると、他の人に期待していないので、周りの人が自分の思い通りに動いてくれなくても、怒ったり悲しんだりしなくなり、いつも心穏やかに過ごせるようになります。

また、期待してないからこそ、周りの人が自分のために何かしてくれると、感謝の気持ちが湧いてきて幸せな気持ちになります。

そして、自分のために何かしてくれた人に心から感謝の気持ちを伝える(勇気づけ)と、その人も「役に立てて良かった」と自分の価値を実感して幸せになれます。

 勇気づけ
他の人に感謝や尊敬、喜びの気持ちを伝えることで、その人が自分の価値を実感して生きる勇気を与えること

さらには、自分に何かしてくれた人にいつも感謝していると、親切にしてもらえることが多くなり、ますます幸せになっていきます。

多くの人は自分の価値を実感するために、感謝してくれる人にもっと何かしてあげたいと思って行動するからです。

 

特別な存在ではなく「普通」であっても「私であること」に価値があると考え、他の人に認めてもらおうとしないライフスタイル

得意なことを仕事にするなど、自分らしさを活かして他の人の役に立とうとすれば、自分は世界の一部として「普通」であっても、この社会にとって有益な存在なんだと、ありのままの自分(私であること)の価値を実感し(普通であることの勇気自己受容)、自分はここにいてもいいんだという安心感が得られます。

そうやって自分の価値を実感できれば、他の人に特別な存在として認めてもらう必要はありません。

 普通であることの勇気
特別な存在になろうとせず、自分は世界の一部だという事実を受けいれる勇気
「普通」というのは誰もが同じように世界の一部だということであって、「無能」という意味ではありません。誰もがそれぞれ価値ある存在なので、他の人と比べて自分の方が特別な存在で優れているとアピールする必要はないのです。
 自己受容
ありのままの自分を受け入れること。普通であることの勇気を持つための重要な一歩
 

世界への意味づけや思考の傾向に関するライフスタイル

他の人は信頼できる仲間であり、世界は安全で快適なところだというライフスタイル

まずは他の人を敵だと思わない。

そして、自分には他の人をコントロールできないんだという事実を受け入れ、裏切られて傷つくこともあるかもしれませんが、それでも他の人を無条件で信じます。

すると、他の人を仲間だと思えるようになります。

他の人を信頼できる仲間だと思えれば、競争する必要はありません。

他の人に勝たなくてもいいので、負けるかもしれないという恐怖から逃れて、心穏やかに過ごせます。

また他の人を仲間だと思っているので、他の人の幸せを素直に祝福できますし、他の人が困っていたら自然と力になりたいという気持ちになれます。

仲間と喜びも悲しみも分かち合えれば、そこに自分の居場所があると思えて幸せになれるのです。

 
筆歌
一人でも多くの人がこのライフスタイルを選べば、世界から争いを減らすことができるかもしれませんね。

世界とは、他の誰かが変えてくれるものではなく、ただ「私」によってしか変わりえない(私が変われば世界が変わってしまう)というライフスタイル

ライフスタイルを変えて自分自身が変われば、混沌とした世界がシンプルな姿を取り戻します。

問題は世界がどうであるかではなく、自分が世界をどう見るかなのです。

世界を直視し、現実逃避することなく今を真剣に丁寧に生きていれば、自分の目に映る世界は変わります。

例えば、世界のあちこちで人々が争っているのを見て、今後も争いはなくならないだろうと悲観して目を背けるのではなく、まずは自分が周りの人を信頼して仲間になることから始めてみるのです。

自分の努力次第で世界から争いがなくなる日が来るかもしれませんし、来ないかもしれません。

それでも、先に紹介した「他の人は信頼できる仲間であり、世界は安全で快適なところだというライフスタイル」を選びなおして行動していれば、希望に満ちた明るい世界が見えてきます。

アドラー博士は言っています。

誰かがはじめなければならない。他の人が協力的でないとしても、それはあなたには関係ない。私の助言はこうだ。あなたがはじめるべきだ。他の人が協力的であるかどうかなど考えることなく

『幸せになる勇気』岸見一郎さん、古賀史健さん

思考や行動の傾向に関するライフスタイル

あらゆる「縦の関係」を否定し、すべての対人関係で「横の関係」(同じではないけれど対等)を築くライフスタイル

これはアドラー心理学の根本原理でもあります。

年齢や性別、職業、能力、人種、文化、宗教、容姿、収入など関係なく、すべての人を尊重し、誰に対しても対等に同じように接するのです。

自分と考え方や価値観などが違う人とは対立しやすいので、敬遠してしまったり、自分の方が正しくて優れていると思い込んで差別してしまったりしがちです。

でも人はみな等しく高い環境適応能力を持っていて、例えば、人種や文化の違いは、土地(気候)や時代など置かれた環境に適応した結果に過ぎず、優劣などありません。

一人でも多くの人がこのライフスタイルを選び、お互いの違いを認めて尊重しつつ、言うべきことは言える良好な関係を築いていければ、世界から争いや格差の問題がなくなるかもしれません。

 
筆歌
自分と考え方などが似ている人や共通点の多い人と一緒にいる方が、居心地が良くて楽しいし、コミュニケーションをとるのもスムーズで楽ですよね。でも自分と違う考え方の人も受け入れると、新たな発見があって自分が成長できたり、新しいものが生まれて世界がもっと良くなることもあったりするんじゃないかと思います。

全体のうちのごく一部分を見て判断するのではなく、全体を見渡して判断するライフスタイル

自分の欠点や弱点ばかり気にしたり、自分の過去を言い訳にしたり、不確実な未来ばかり見たりしないで、良いところも悪いところもひっくるめて、今のありのままの自分を丸ごと全部受け入れます(自己受容)。

そして、今の自分にできることをやっていこうと、今ここを真剣に丁寧に生き、人生のタスクと向き合っていきます。

そうやって今できることを精一杯やって生きていると、ふと「いつのまにこんな遠くまで来たんだな」と気づかされます。

人生は線ではなく点の連続で、連続する刹那なのです。過去も未来もありません。

今ここにスポットライトを当て、今できることを真剣かつ丁寧にやっていれば、過去が見えたり未来を予測できたりしないのです。

誰かと競争する必要もありませんし、目的地もいりません(エネルゲイア的な人生)。

 エネルゲイア的(現実活動態的)な人生
いまこの瞬間をくるくるとダンスを踊るような人生。過程そのものを結果とみなす。旅のようなもの。例えば、遠い将来の受験に向けて勉強している今ここもすでに本番!人生は常に完結している

今を真剣に丁寧に生き、自分に嘘をつかず、今の自分よりも少しでも前進しようと努力していれば、いつ人生が終わっても幸福な人生なのです。

 
筆歌
人間にとって最大の不幸は、自分を好きになれないこと。自分の欠点や不幸な境遇ばかり見ていたら自分を好きになれません。自分の長所も短所も丸ごと受け入れて、いつ死んでも後悔しないように、今の自分にできることを精一杯やっていれば、幸せな人生を歩むことができるんですね。

 

参考文献
『嫌われる勇気』岸見一郎さん、古賀史健さん(2013年 ダイヤモンド社さん)
『幸せになる勇気』岸見一郎さん、古賀史健さん(2016年 ダイヤモンド社さん)