アドラー心理学によると、行動面の目標と、この行動を支える心理面の目標を、人生のタスク(仕事のタスク、交友のタスク、愛のタスク)と向き合って達成すれば幸せになれるという。
心理面の目標:①私には能力があると思えること、②人々は私の仲間であると思えること
では、どうやって「人生のタスク」(対人関係の問題)と向き合っていけば、自立して社会と調和して暮らせるようになり、幸せになれるのでしょうか。
まずは今のライフスタイル(人生観や世界観など)をやめる決心をする必要があります。
これから紹介するライフスタイルの中で、自分はこのライフスタイルを選んじゃってるかも…と思うものがあったら、それをやめる決心をするのです。
たったそれだけで世界が一変し、人生が変わります。
ちなみに、一般的にはライフスタイルと言えば、生活の仕方・様式をイメージすると思いますが、ここでは人生観や世界観、価値観なども含めた広い意味で考えていきます。
世界や自分をどのように意味づけ、どんなふうに考えたり行動したりしがちかということ
狭い意味では人の性格や気質、広くは世界観(自分にとって世界はどんなものか)や人生観(自分にとって人生とな何なのか)という意味もあります。
実は人は10歳前後の頃に無意識のうちにライフスタイルを選んでいるそうで、選んだということは変えられないものではなく、選びなおせるものだということです。
自分への意味づけや思考・行動の傾向に関するライフスタイル
自分は世界の中心にいるんだというライフスタイル
このライフスタイルの人は、他の人は自分の期待を満たすために生きていると考えます。
周りの人が自分の思い通りに動いてくれることを期待してしまうのは、無意識のうちに「自分は世界の中心にいる」と考えているからです。
そして、他の人が自分の思い通りに動いてくれると期待していると、誰かが自分のために何かしてくれても当然だと思って感謝できないので、周りから人が離れていきます。
また、他の人が自分の期待にこたえてくれないと、がっかりしたり頭に来てイライラしたりして、どんどん不幸になっていきます。
でもこのライフスタイルをやめれば世界が180度変わります。
他の人に期待しなくなるので、誰かに何かしてもらえると感謝の気持ちが湧いてきて幸せになれますし、周りの人が自分の思い通りに動いてくれなくても悲しんだり怒ったりしなくなり、心穏やかに過ごせるようになります。
愛されるための自己中心的なライフスタイル
このライフスタイルの人は、どうしたら他の人から注目され「普通」ではなく「特別」な存在として自分が「世界の中心」に立てるか模索します。
自分には価値があると思いたい。自分の居場所を確保したい。
そこで、分かりやすくて手近な方法として、良くも悪くも他の人に認めてもらおう(承認欲求)とします。
- 承認欲求
- 有名になりたいなど、他の人に自分の価値を認めてもらいたいと強く願うこと
- 安直な優越性の追求
- 健全な努力をせずに問題行動に走ることで他の人の注目を集め、特別な存在になろうとすること
世界への意味づけや思考の傾向に関するライフスタイル
他の人は敵であり、世界は危険で居心地の良くないところだというライフスタイル
このライフスタイルの人は、他の人は自分を打ち負かそうと虎視眈々と狙っている敵であり、世界は危険で居心地の良くないところだと考えます。
人生を勝ち負けで考えるので勝者になれても幸せとは限りません。
「敗者になりたくない、自分は勝ち続けなければ」と他の人を信頼することができないので、心が休まるときがないのです。
また、他の人の幸せを「自分の負け」のようにとらえてしまうので(いわゆる「勝ち組」「負け組」)、他の人の幸せを素直に祝福することができません。
でもこのライフスタイルをやめれば他の人は敵ではなくなるので、競争する必要がなくなり安心して暮らせます。
また、他の人の幸せを祝福して喜びを分かち合うことができるようになるので、仲間が増えて自分の居場所を確保できます。
・幸せのお手本?本当の幸せって何だろう…~他人軸で生きるとプレッシャーで苦しい
世界は他の誰かが変えてくれるというライフスタイル
世界には食糧問題や、経済格差、差別、戦争、環境問題などの難しい問題がたくさんありますが…
このライフスタイルの人は、これらの問題は自分一人ではどうにもなりませんが、いつか他の誰かが変えてくれるだろうと考えて、自分は行動しません(依存と無責任)。
- 依存と無責任
- 他のものを頼って存在・生活し、責任を負わないこと
このライフスタイルをやめることは、自分にも世界を変える力があると考えて行動するということです。
すごく難しいことですが、どんなに小さなことでも勇気を出して行動に移していけば世界は着実に変わっていきます。
思考や行動の傾向に関するライフスタイル
自分の弱さや不幸などを「武器」にして他の人をコントロールしようとするライフスタイル
これは、自分の弱さや不幸、傷、不遇な環境、トラウマ等を「武器」にして、他の人を心配させて自分の思い通りに動かそうとする、甘やかされた子ども時代のライフスタイルです。
赤ちゃんが自分の面倒を見てもらおうと泣くことなどがその典型例です。
子どもは親に面倒を見てもらわなければ生きていけないので、命に直結した生存戦略として、自分の弱さを武器に親をコントロールしようとするライフスタイルを選ばざるを得なかったのです。
でも、大人になってもこのライフスタイルを選択し続ける人がたくさんいます。
病気やけが、失恋などで傷ついたときに、自分の不幸を訴えて、周りの人をコントロールしようとするのです。
アドラー博士は、そのような大人たちを「甘やかされた子ども」と断じて厳しく批判しました。
周りの人が優しい声をかけてくれても「あなたに私の気持ちなんてわかるはずがない」と救いの手を払いのけ、自分を大事に丁重に扱ってもらおうとします
- 優越コンプレックス
- 劣っている自分を受け入れられないので、あたかも自分が優れているかのように振る舞い、偽りの優越感に浸ること
- 不幸自慢
- 自分の不幸を自慢げに語り、不幸を理由に「特別」な存在として他の人の上に立とうとすること
実は、自慢するのは、自分が優れているとアピールしないと周りの人が自分を認めてくれないと恐れているからであり、自分に自信があれば自慢などしません。
不幸自慢は特異な優越感に浸る特殊なケースです。
自分は優れているとアピールするのではなく、本来は自慢できるものではない「自分は不幸で他の人より劣っている」という劣等感そのものを特別なものに仕立て上げて自慢するからです。
ほめられないなら適切な行動はしないし、罰を受けないなら不適切な行動もとるというライフスタイル
これは「適切な行動をとればほめられ、不適切な行動をとれば罰を受ける」という賞罰教育の結果として生まれてしまったものです。
本来ほめられなくてもゴミを拾うなど適切な行動をすべきですし、罰があろうとなかろうとゴミをポイ捨てするなど不適切な行動はすべきではないのです。
それなのに子どもの頃に受けた賞罰教育(アメと鞭)のせいで、知らず知らずのうちにこのライフスタイルを選んでしまっている人もいるのです。
アドラー博士は、賞罰教育を大人が自分の思い通りに行動させるために子どもを操作しようとするものだとして厳しく批判しました。
対人関係を縦に見て、相手によって自分の考えや態度、行動を変えるライフスタイル
このライフスタイルの人は、他の人を自分と対等と見なしたり上に見たり下に見たりします。
自分と対等だと思える人に対しては、心を許して自然体で付き合えますが(横の関係)、自分より格上だと判断した人に対しては、尊敬したり媚を売ったりするする一方で、嫉妬したり卑屈になったりしてしまいます(縦の関係)。
また、自分より格下だと判断した人に対しては、同情する一方で、優越感に浸ったり軽蔑したり差別したりしてしまいます(縦の関係)。
- 横の関係
- 対人関係を同じではないけれど対等と見ること
- 縦の関係
- 対人関係を上下で見ること
親や上司、後輩などと縦の関係を築いているなら、それがたった一人でも対人関係を縦に見ている証拠です。
人は相手によって対人関係を縦に見たり横に見たりできるほど器用ではなく、自分でも気づかないうちに対人関係をすべて「縦」でとらえてしまうからです。
このライフスタイルをやめて誰か一人とでも対等な横の関係を築くことができれば、そこを突破口にして対人関係をすべて「横」にとらえることができるようになります。
相手を尊重しつつ、言うべきことはしっかり言える関係を築いていければ、自分らしく生きることができます。
物事の一部分だけ見て全体を判断する、人生の調和を欠いた誤ったライフスタイル
このライフスタイルの人は、物事の一部分しか見ていないのに、「みんな○○」「いつも○○」「すべて○○」などと物事を一般化してしまいます。
そして、それを対人関係がうまくいかない(振られるのが怖くて告白できない等)言い訳にして、人生のタスクを回避してしまうことも(劣等コンプレックス)
- 赤面恐怖症(精選版 日本国語大辞典)
-
対人恐怖症の一つ。
人に対すると緊張して顔面が赤くなり、赤くなるまいとするとますます緊張して赤くなるもの。赤面症。
- 劣等コンプレックス
- 自分には欠点があるからできないんだと、やりたいこと・やるべきことをやらないこと
そして、それを対人関係がうまくいかない(相手を信じられず交友関係に踏み出せない等)口実にして、人生のタスクを回避してしまうことも(劣等コンプレックス)
- 吃音(きつおん)(明鏡国語辞典)
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発音障害の一つ。
おもに第一音が容易に出ない、ある音をくり返す、ある音を引きのばすなどの症状があらわれる。吃音症。
そして、今後もこの過去から逃れられないから自分は変われないんだと(原因結果論、所有の心理学)、過去を口実にして今ここを真剣に生きず(人生最大の嘘)、可能性の中に生きようとする人もいます。
結局、自分の都合の良いように過去に意味づけをして(目的論)人生のタスクを回避し、不満はあるものの、何もせず変わらないという楽な方へ流れてしまうのです。
- トラウマ(精選版 日本国語大辞典)
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恐怖・ショック・異常経験などによる精神的な傷、心的外傷。
それ以後の行動に強い制限や影響を及ぼす。
- 原因結果論(決定論)
- 人間の意志や行為が、何かの原因によって前もって決められているという考え方。例えば「年収1,000万円以上の家庭に生まれなければ東大には入れない」と考えるなど
- 所有の心理学
- 何が与えられているかに注目し、過去が今の自分の人生を決めていると考える。自分の人生は自分で選べない
- 人生最大の嘘
- 過去や未来ばかり見て現実から目を背け、今を真剣に丁寧に生きないこと
- 目的論
- いっさいの事物はすべて目的を実現するためにあるという考え方。
人は過去に起こった膨大な出来事の中から今の「目的」に合致する出来事だけを選択し、意味づけして、自らの記憶としている。
逆に言うと、今の「目的」に反する出来事は消去する(歴史の改ざんなど)
このライフスタイルをやめるのはとても難しいです。
なぜなら、世界全体のごく一部だけ見て「○○のせいで自分は変われないから幸せになれないんだ」と言い訳するのをやめて世界を直視し、失敗を恐れずに現実と向き合っていく勇気が必要になるからです。
アドラー心理学はトラウマを否定して目的論をとり、「過去にどんな辛いことがあろうと、今後の人生とは関係がない。人生は変えられる、人は幸せになれる」と考える点が非常に新しく画期的です。
でも言いかえると「現実逃避してはいけない」という非常に厳しい考え方でもあるのです。
物事の特定の部分にしか着目しない、人生の調和を欠いた誤ったライフスタイル
このライフスタイルの人は、物事の特定の部分にしか着目せず、その他の部分については責任を回避してしまいます。
そして、仕事を理由に、会社の仕事以外の人生のタスクを回避してしまうこともあります(ワーカホリック)。
本来は人生のすべてのタスクに関心を寄せるべきであって、アドラー博士は、このようなどこかが突出した生き方を「人生の嘘」として認めません
- ワーカホリック(精選版 日本国語大辞典)
-
work(仕事)とalcoholic(アルコール中毒)の合成語
働きすぎの人、また、仕事だけが生き甲斐(がい)の人をいう語。
仕事中毒。1970年代にアメリカの作家オーツによって造られた。
- 人生の嘘
- あれこれ言い訳をして自分の人生のタスクと向き合わないこと
このライフスタイルをやめて、例えば会社の仕事だけでなく家事や子育てにも関心を寄せ、家族に感謝したり家族と一緒に過ごす時間を大切にしたりすると、家庭にも居場所ができて家に帰るのが楽しみになり幸せになれます。
恥ずかしながら、私はほとんどすべて選んでいました(汗)
まずはこれらのライフスタイルをやめて、自分を不幸にしている原因を一つずつ減らしていきましょう。
『嫌われる勇気』岸見一郎さん、古賀史健さん(2013年 ダイヤモンド社さん)
『幸せになる勇気』岸見一郎さん、古賀史健さん(2016年 ダイヤモンド社さん)